研究室紹介

地球益学廊/地球環境政策論

宇佐美研究室紹介

―宇佐美先生はどんなことを研究されているのですか?

環境問題に関する法哲学的研究をしています。特に、正義の妥当する範囲を広げたいという問題関心があって、環境問題や環境政策に正義の観点からアプローチしています。同時代の人間同士の場合、例えば借りたものは返すべきといった、わかりやすい正義のルールが成り立ちます。では、異なる世代の場合はどうでしょう。私たちの環境破壊が未来の人たちに悪影響を及ぼすことを考えれば、現在世代には将来世代を配慮する義務があるように思えます。他方、500年後とか1000年後といった、私たちがこの世からいなくなった後の遠い未来の人たちのために、国家が税金を使って政策を行わなければならないとすれば、その根拠はいったい何でしょうか。このように、私が行っている研究のひとつは、世代間正義(intergenerational justice)の観点から環境問題や環境政策を考察することです。もうひとつは、国境を超えた分配の問題です。例えば、CO2の排出量削減をめぐる先進国と発展途上国の対立は、気候変動がグローバル正義(global justice)の問題であることを示しています。国際学界で最近研究が進んでいる気候正義(climate justice)には、世代間正義とグローバル正義の両方が含まれています。

―研究室はどのように運営されていますか?

現在、博士後期課程7名、修士課程11名、研究生4名が研究室に所属しています。留学生は、中国から6名、インドネシアから2名、韓国から1名、スイスから1名、バングラデシュから1名で、ゼミでは英語と日本語が飛び交っています。留学生が多いのは地球環境学舎の特徴のひとつですが、留学生との議論や交流は、日本人学生にとっても大きな刺激になっていると思います。研究指導は、①定期的に約1時間行う個別面談、②不定期に開催するゼミ、③社会科学系の他の研究室と合同で年2回開くゼミ、という三本柱からなっています。②や③では、さまざまな専門分野の院生が発表しあい討論しあうので、学生はいろいろな角度からのフィードバックを受けて、自分の研究を深めてゆくことができます。

―院生の皆さんがされている研究について教えてください。

現在所属している院生たちの研究は、クリーン商品の購買意欲の認知科学的な研究や、遺伝資源の商品化をめぐる先住民族の意識分析、韓国の太陽光パネルの技術開発に関する計量的研究、アフリカでの温暖化適応策の事例研究、放射性廃棄物に関する国際条約の検討、そして気候正義の理論的分析など、非常に多岐にわたっています。

―(2016年1月26日に行われた宇佐美研究室の研究発表会で報告したインドネシアからの留学中のチタ・エカニジャティさんに)宇佐美研究室で学ぼうと思った動機や学舎について教えてください。

チタさん:
宇佐美先生の研究室では、環境政策について学んでいます。研究室では、先生も院生のみんなも、有益なコメントで私の研究を後押ししてくれていますし、資料や本もそろっています。インドネシアでは教授から直接教わることはあまり多くはありません。地球環境学舎では、教授から直接丁寧に指導を受けられるところも魅力です。また地球環境学舎では、学生のプロジェクトやインターンシップ、国際会議への参加を経済的に支援する体制も整っています。インドネシアに戻ったら、大学で教鞭をとることを希望しています。

〈インタビュー後記〉

環境問題がグローバルな問題として認識されるようになって久しい。しかし、環境問題は空間的な広がりをもつと同時に、時間的な広がりをもつ問題でもある。複数の次元にまたがる問題に対して、私たちはどこまで共通したルールや倫理を共有できるのだろうか。世代を超えた責任の問題を問う土壌がアジア社会には存在するかもしれないが、制度設計の面ではまだ途上である。また環境問題をめぐるグローバルな合意には、価値観の違いにとどまらない政治経済的な駆け引きが絡んでいる。宇佐美研究室は、まさにこのような問題の背景を反映し、グローバルで開かれた研究室である。(岩谷彩子)

資源循環学廊/大気環境化学論

梶井研究室紹介

―梶井先生はどんなことを研究されているのですか?

専門は大気化学の研究です。大気中の物質を検出したり評価したり、大気汚染のメカニズムを明らかにする研究を行っています。1970年代に日本でも大気汚染は深刻な社会問題になりました。光化学スモッグの原因となるのが、オキシダントという物質です。排気ガスの成分である窒素酸化物であるNOXと揮発性有機化合物であるVOCが大気中で化学反応を起こして作られるオキシダントは、1980年代には大気汚染防止法の影響や、官民一体となった大気をきれいにしようとする試みにより、減少していました。ところが、1990年代以降また増加傾向にあり、その原因の探求が急務となっています。オキシダントは春に多く夏には少なくなることから、PM2.5なども含めて中国からの越境汚染だけではオキシダントの増加を説明できません。そこで、オキシダントやPM2.5の原料となるVOCを検出することが求められるのですが、500~2000種類のVOCがあるので、その特定は極めて困難です。そこで、私たちはOHラジカルという物質に注目しています。OHラジカルは、大気中のVOCと反応すると安定なH2Oになって消失します。その消失の速さを測定することで、大気中のVOCの総量に相当する情報を得ることができます。私たちの研究室には、OHラジカルを人工的に作り、大気と反応させる手作りの装置があります。このレーザーを使った装置を用いた大気中の物質の計測を、国立環境研究所や他大学とも共同して行っています。

―梶井研究室はどのように運営されていますか?

研究室は地球環境学舎と人間・環境学研究科に属するメンバーにより構成されています。中では区別なく研究活動を行っています。現在研究室に所属しているのは、特定研究員が2人、博士後期課程の学生が1人、修士課程の学生が6人です。そのうち地球環境学舎の学生は修士課程5人です。毎朝9時30分に特定研究員、博士後期課程の院生、助教の坂本陽介先生が集まり、簡単な打ち合わせをします。週に1度、学部生、院生を対象に、研究の進捗状況を報告するゼミを行っています。半年に一度、院生全員で研究発表を行います。最新の学術誌をレビューする雑誌会も行っています。月に1度は、杉山雅人先生(人間・環境学研究科、水圏化学)の研究室と合同雑誌会も行っています。院生主体で週1回行われる勉強会もあり、大気化学についての本をテーマごとに要約するなどして勉強しています。

―(研究室に集まっている院生さんたちに)院生の皆さんがされている研究について教えてください。

Aさん:
大気汚染についての関心を深めたいと思い、梶井研究室で勉強しています。

Bさん:
自動車に興味があり、排気ガスについて研究しています。

Cさん:
環境中での物質の移動について研究しています。

Dさん:
京都議定書がきっかけでした。CO2が地球温暖化の原因だとされていますが、CO2ではない原因があるのではないか。そのような研究を行っています。

―梶井研究室の雰囲気について教えてください。

自由であるということでしょうか。研究内容も自由に決めさせてもらえますし、研究のやり方もやりたいようにやらせてくれるという感じです。修士論文を作成するにあたって、ベトナムでの海外調査も体験させてもらえて、とても勉強になりました。

〈インタビュー後記〉

梶井研究室の「自由さ」は、筆者が少しお邪魔させてもらった限りでも感じとることができた。先生の研究分野についてまったくの門外漢のインタビュアーに対して、先生はご自身の研究内容を丁寧にわかりやすく教えてくださった。先生の革新的で最先端の研究内容に対して、おびただしい管がついた手作りの装置と、その隣の(VOCの観測に使われる)植物が入ったケースは、なんだかとても対照的に思えた。梶井研究室では、今日も科学の力で環境問題の解決に取り組んでいる。(岩谷彩子)