第23回嶋臺塾を開催しました

第23回 つむぐ、まとう

日  時 : 平成24年3月28日(水) 午後6時~8時
場  所 : 嶋臺本陣ギャラリー
学堂から :「人生を彩る衣 ~印度の絞り染め~」
       金谷 美和 (三才学林 研究員)
世界から :「環境にやさしい素材づくり ~製品の一生を考える~」
       岡 研一郎 氏 (東レ株式会社 地球環境事業戦略推進室長)
ひとこと : 横山 俊夫 (人文科学研究所 教授)
司  会 : 吉野 章 (地球環境学堂 准教授)
主  催 : 京都大学 地球環境学堂・学舎・三才学林
協  力 : 嶋臺 (しまだい)

 

 多くの方々にお集まりいただき、今年度最後の嶋臺塾は、衣食住の衣をテーマに語り合いました。
 金谷美和さんのインドの絞り染めのお話しは、「布は身に纏って初めて意味をなす」という言葉から始まりました。インドのカッチ地方では、女性が絞り染めの布を頭から被り、顔を隠すという使われ方をされているそうです。会場にお越しの女性に、実際に絞り染めを被っていただくと、布に施された円は女性の腰のあたりにバランスよく配置され、被ることによって生まれた襞が美しい陰影を作り出しました。この被り布は、既婚の女性が夫が健在な間、身に纏うことができる衣だとのこと。結婚式の時にも布を被り、布の四隅には邪視を避けるため4のつの品が括りつけられているそうです。この他にも絞り染めの工程や布の役目についてお話しいただき、人生や社会と結び付いた布の意味を知ることができました。
 岡研一郎さんからは、新しい繊維とLCA(ライフサイクルアセスメント)についてお話しいただきました。LCAとは、製品が生まれてから処分されるまでの一生涯を対象に評価すること。製造過程だけでなく、製品の一生涯を通して考えることによって、環境への影響を客観的、定量的に評価できるようになります。種類の化繊の特徴を組み合わせて作られた新開発の下着は、身体から出ている水蒸気を吸って冬でも暖か、しかも着心地がよく、お洒落であるため大ヒット商品となっているそうです。LCAによってこの新しい下着の評価を行ってみると、ひと冬、綿の下着の代わりに着用すると、50年生のスギ1本が1年で固定する量のCO2を削減する効果があることがわかったそうです。航空機の機体に用いられる炭素繊維は、3,000度の高温で焼いて作るため、製造の過程で大量のCO2を排出するのですが、機体の軽量化による航行時のCO2削減効果の方がずいぶんと大きく、製品の一生涯を考えれば、従来の金属製の機体を用いるよりも環境にやさしいということでした。
 来場者を交えた対話では、天然繊維と合成繊維についての議論がありました。綿や麻などの天然繊維は、一見すると合成繊維よりも環境にやさしそうですが、生産に土地を必要とするため食糧生産と相反する面があることや、大量生産のために窒素肥料や農薬を用いるため環境へ悪い影響を与えている面があることの指摘がありました。一方で、合成繊維は石油に由来するため、先行きが不透明であり、環境に負荷を与えていることには違いありません。これからは、バイオマスに由来する繊維の製品化や、布を大切に最後まで使いまわしていたかつての暮らし方を見直すことが大切ではないかとの意見が出されました。江戸時代には、着物に対する規制があったために、文化が発展したという側面もあるとのこと。衣にまつわる自由な創意によって、よりよい環境となることを願って、今回の嶋臺塾は幕になりました。(今西純一)

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