高岡研究室 『下水汚泥焼却発電システム』が国土交通省平成25年度B-DASHプロジェクトに採択  ~低含水率脱水機+次世代型階段(ストーカ)炉+蒸気発電機~

 国土交通省では、新技術の研究開発および実用化を加速することにより、下水道事業におけるコスト縮減や再生エネルギー創出を実現するため、平成23年度から「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト:Breakthrough by Dynamic Approach in Sewage High Technology Project)」を実施している。これは、下水道施設のコストを大幅に低減し、エネルギー効率の増大に寄与する革新的技術について、実規模レベルのプラントを建設、運転して各種データ採取を行うものであり、国土交通省国土技術政策総合研究所の委託研究として実施している。

 平成25年度B-DASHプロジェクトは、バイオマスである下水汚泥の燃焼による発電技術が対象とされた。本学地球環境学堂地球益学廊資源循環科学論分野の高岡昌輝教授、大下和徹准教授は、和歌山市、地方共同法人日本下水道事業団、株式会社西原環境および株式会社タクマと共同で、低コストでエネルギー効率の高い「下水道バイオマスからの電力創造システム実証事業」を提案し、採択された。本実証事業では、和歌山市中央終末処理場内に焼却規模35t-wet/日の下水汚泥焼却発電実証プラントを設置して、実証を行う。京都大学グループは、本システム全体の物質収支に関するデータ収集、解析、評価を担当する。

++背景  下水処理にて発生する汚泥はバイオマスであることから、再生可能エネルギーとしての利用が期待されている。下水汚泥は減容化と衛生的な処理を目的として、脱水処理した後に焼却されることが多いが、炉に投入される汚泥は水分を約80%含むことから、湿潤ベースの発熱量は固形物ベース(16,500kJ/kg-DS)の10分の1程度と低い。そのため、燃焼温度を確保するべく焼却廃熱は燃焼空気の予熱に利用し、さらに不足する熱量は補助燃料を使用することでまかなっている。さらに、下水汚泥の焼却により発生する温室効果ガスのN2O(下水処理場から発生する温室効果ガスの約20%を占める)の抑制を目的として燃焼温度を850℃としており、補助燃料使用量をより増加させる要因となっている。このような背景から、下水汚泥は再生可能エネルギーとしての利用が期待されているにもかかわらず、現在汚泥焼却廃熱の発電への利用はほとんど行われていない。

++技術概要  本技術は下記の3つの技術を組み合わせることにより、汚泥焼却を従来のエネルギー消費型設備から、エネルギー回収システムへと変貌させるものである。

1.機内二液調質型脱水機を用いた低含水率化技術 2.次世代型階段炉(ストーカ炉)とボイラによる廃熱回収技術 3.蒸気発電機による廃熱発電技術

 機内二液調質型脱水機は、従来機と比較して汚泥の含水率を8~10%低減可能な脱水機である。従来は高分子凝集剤一液調質方式であったのに対し、本脱水機は無機凝集剤であるポリ硫酸第二鉄を併用し機内薬注することを特徴としている。汚泥の含水率が下がれば炉に投入する熱量を増加させることが可能となり、補助燃料を用いることなく燃焼温度が確保でき、さらにエネルギーを回収して発電等を行うことが可能となる。

 階段炉は、下水汚泥焼却炉として最もシェアの高い流動炉と比較して、消費電力が半分程度であり、さらに温室効果ガスであるN2O排出量も著しく低いといった特長を有する反面、従来の脱水汚泥を直接焼却することはできず、乾燥機が必要であった。発電した電力を有効利用するためには、焼却炉の消費電力は低いことが重要であるため、階段炉の特長を生かしつつ、二液調質脱水汚泥を直接焼却できるよう、炉内乾燥機能を強化した次世代型階段炉が開発されており、本システムに導入される。

 発電は、ボイラにより熱回収した蒸気を利用するシステムとした。処理規模が大きく多量の蒸気が得られる場合には、水冷式の復水タービン方式とした。とくに下水処理場は多量の処理水が冷却水として利用できるため、発電効率の高いシステムの構築ができる。ただし、復水タービン方式は発生蒸気量の少ない中小規模ではコスト的に適用が困難である。そこで、中小規模では近年注目されている小型のスクリュー式低圧蒸気発電機に加え、そこから排出される湿り蒸気の熱量を利用するバイナリー発電機を組み合わせることで、最大限の電力回収を行うシステムを構築した。

 以上の3つの技術を組み合わせることで、一定規模以上の汚泥焼却施設では発電量と設備消費電力が同等以上となる「電力自立」、さらには発電した電力の外部供給が可能となる。

++今後の展望  下水汚泥の発熱量を大きくし、焼却廃熱を利用して発電を行うことは、補助燃料費、電気料金に起因する維持管理費の低減に寄与できるのみならず、下水汚泥がバイオマスであることから、下水道事業からの温室効果ガス排出量の低減に寄与できる。また今後電力価格の値上げにより、発電が可能な本システムのニーズは高まることが予想される。

 本事業への参画により、下水道分野における「汚泥のエネルギー利用」と「CO2削減」への技術面での貢献ができるよう、4者と共同・協力し、研究設計・維持管理に係る様々な実証データを収集・解析し、汚泥のエネルギー利用・およびCO2削減が図れる汚泥焼却廃熱発電システムを確立し、普及展開を図りたいと考えている。

教授 高岡昌輝 准教授 大下和徹