第 26 回 甍(いらか)の波をおよぐ
日 時 : 平成25年3月22日(金曜日) 午後6時~8時
場 所 : 嶋臺本陣ギャラリー
淡路島から :「カワラぬ価値を想う」
道上 大輔 氏(瓦師)
大学から :「伝統構法を未来につなぐ」
鈴木 祥之 氏 (立命館大学 教授)
洛中からひと言、ふた言。。。
司 会 : 吉野 章(地球環境学堂 准教授)
主 催 : 京都大学 地球環境学堂・学舎・三才学林
協 力 : 嶋 臺 (しまだい)
第26回は、瓦と伝統的な建築について考えました。平成7年の阪神淡路大震災以来、瓦の需要は激減しました。瓦で重い屋根は潰れやすいという風説の定着が、その理由だと言われています。震災当時、押しつぶされた瓦屋根の映像が、テレビから幾度となく流されました。
今回お話しいただいた道上さんは、淡路瓦の職人さんで、このような状況に危機感を抱き、瓦の価値を訴えるために、さまざまな取り組みをされている方です。ご自身のギャラリーに置かれた瓦の椅子や、国内外の瓦のある風景、取り組みとして行われている火入れ式の様子など、美しい写真を紹介しながら、瓦は、1000年以上に亘って、日本の風土の中で培われてきた守るべき伝統的価値であること、そのことは、瓦の需要が落ち込んだ現在でも変わることはなく、瓦の曲線や瓦屋根の風景が、日本人の美意識の奥に眠っていること、だから、感性に訴えると、若い人にも瓦の価値を思い出してもらえるのであって、古き良き町並みを守ることに留まらない、「新しき良き町並み」づくりをやるべきであるし、それを目指しているのだ、ということを熱く語られました。
鈴木先生からは、瓦屋根の耐震性を構造力学的にどう評価できるか、平易な言葉で解説いただきました。また、伝統的な京町家と新しい町家風の家を、実際に振動台に載せて揺らした映像を使って、それぞれの揺れ方の違い、崩れ方の違いを見せてもらいました。そうした上で、伝統的な建物の耐震をいかにすべきか、巨大な瓦屋根をもつ東本願寺御影堂の耐震補強の様子なども交えて説明されました。そもそも木造建築の軸組構法には、伝統的構法と在来工法というのがあり、在来構法が、建築基準法の仕様規定に沿ってつくられるのに対して、伝統構法はそうした仕様を見たさないので、限界耐力計算という方法で、仕様規定と同程度以上の耐震性を満たす性能を示さなければならないそうです。しかし、そのための手続きの煩雑さは、一般の工務店が処理できるものではなく、伝統構法を守るためには、建築基準法の見直しが必要とされています。鈴木さんは、阪神淡路大震災以来、木造建築の耐震性の評価や、補強、設計を研究してこられ、現在、その制度的見直しを進めておられます。そうした取り組みの現状についても紹介いただきました。
会場からは、京町家で暮らして、京の町並みの変遷を見てこられた方や、町並みづくりに携わっておられる方など、多彩な見解や質問が出され、いつも以上に厚みのあるやりとりが行われました。議論は尽きることなく、惜しみながらの閉会となりました。(吉野 章)